東方瓊玉録

東方projectの二次創作をしています。twitter @grilledmizuta

【東方】多々良小傘【消しゴムハンコ】

実は、消しゴムはんこも作ったりしています。

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かなり久しぶりに彫刻刀を握ったので出来上がりが不安だったのですが、意外と腕は落ちていませんでした。ただ、髪の毛の彫りはもう少し細くできるかなと思います。

原画は、サークルの代表が描いたものを使用させていただきました。

 

【東方】秋の夜長に【短編】

 幻想郷の遅い秋もようやく深まりを見せてきた。
 山々の紅葉が、山頂から下りてくる気の早い積雪に追いつかれないように山麓に向かって駆け下りてくる光景は、妖怪の山の警備にあたる一匹の白狼天狗の目にもはっきりと見て取れた。彼女の名は犬走椛。同僚たちと一緒に妖怪の山への侵入者を見張る仕事をしていることになっているはずなのだが、おかしなことに周りにはほかの白狼天狗の気配が感じられない。それもそのはず、彼女の同僚たち、それに上司でさえも哨戒の仕事を放り出して詰所で日がな一日大将棋に明け暮れているのだ。
「そりゃあ私だって仕事ほっぽり出して好きなだけ将棋指していたいですよ・・・」
 彼女にしては珍しく、愚痴ともとれる独り言が口をついて出てくる。季節のせいでもあるのだろうか。鉛色の空の下、地上より明らかに寒い山中の木の上で、暖かな詰所で将棋を指す同僚たちを尻目に、来るかも分からない侵入者を見張るだけ。職務に忠実な彼女でも愚痴をこぼしたくなるのは当然だ。
 今日はもう帰ってしまおうかな・・・
 そんな、普段なら思いもしないようなことを考えていると、体を包み込むような嫌な風がどこからともなく吹いてきた。内心、またかと思っても気づいた時にはもう遅い。背後には彼女が苦手な鴉天狗がニヤニヤしながら浮かんでいるのだ。
あやや~ ちょっと寄ってみたら白狼天狗さんはこれからおさぼりでしたか。いけませんねぇ・・・」
 これだからこの人は苦手だ。
 私の考えていることをいつも見透かしていて、どこか私のことを見下している節がある。それなのに、いつも用もないのに私に絡んできては仕事の邪魔をしていくのだ。
「あ、いま私が仕事の邪魔だなんて考えてましたね?ダメな部下ですね~ 先輩が直々に指導してあげているんですから少しは感謝しないといけませんよ」
 そう言って、彼女は私が立っている枝の横にゆっくり腰かけて私の顔を見た。
「指導って言ったって、射命丸先輩はいつも私に取材しに来て、雑談して帰っていくみたいなものじゃないですか」
 鴉天狗である彼女は、他の鴉天狗たち同様、新聞というものを各自で作って発行部数を競う大会に参加している。はっきり言って、新聞の何が楽しいのか私にはまったくわからない。でも、鴉天狗は新聞を書き、白狼天狗は山の警備にあたる、それが天狗社会の在り方なのだ。きっと、私なんかには想像もつかないずっと昔からそうなのだし、別に私もそのことについて何か不満があるわけではない。不満があるわけではないけれど、でも、どうしてこの人はこんなにも自分の仕事を楽しんでいるのだろう?
「また何か難しいことを考えてますね。まあ、貴女は真面目なのでそうやってなんでも難しく考え込んでしまうんでしょうけど・・・」
 彼女がそう言い終わらないうちに冷たい風が二人の間を吹き抜けた。ふと顔を上げると、鉛色の不機嫌な空に、夜のとばりがもうすぐそこまで下りてきていた。
「先輩は・・・射命丸先輩はどうして私の考えていることが分かるんですか?」
 突然の質問にも、少しも戸惑った様子を見せずに彼女は答えた。貴女は考えていることが顔に出すぎです、と。
「さっきの風が吹いた時も寒いと思っていましたよね?まあ、流石にこの寒さは私にも堪えますが・・・」
 そう言って、彼女は私の背中に手を回して体を自分のほうへと抱き寄せた。突然のことに反応もできず、体が固まってしまう。
「やっぱり、白狼天狗はもこもこであったかいですねぇ・・・ それで?どうしてそんなに悲しい顔をしているのですか、椛さん?」
 驚いて顔をあげてしまった。今まで、射命丸先輩が私のことを名前で呼んでくれたことがあっただろうか。
「やっぱり貴女は考えていることが分かりやすいですね。まあ、そこがかわいいところでもあるんですけど」
 射命丸先輩は、私の頭を優しくなでながらそう言った。誰かに抱きしめてもらったのなんて一体いつ以来だろう?それすら思い出せないほど長い間、私はここでの仕事を続けてきた。でも、一体何のため?
 妖怪の山は、元々、山の外の妖怪たちですら怖がって近づかないような場所だ。そんな場所の警備、私一人くらいいなくても問題なく仕事は回るはず。でもそれなら私は何のためにここにいるのだろう?考え始めると止まらなくなった。でも先輩は優しく、温かく抱きしめてくれていて・・・気が付くと私は先輩の腕の中で泣き出してしまっていた。
あやや・・・まさかそれほどだったとは気づきませんでした」
 流石の先輩も、いきなり私が泣き出したのには困惑しているようで、どうすればいいのか分からずにとりあえず私の頭をなでていることにしたようだが、こんな先輩の姿を見るのもこれが初めてだ。
「先輩・・・何も言わないでもう少しだけ抱きしめててもらえませんか?」
 こんなこと、上司にお願いしていいことでないのは分かっている。でも、あと少しだけでいいから先輩に甘えていたくて、気が済むまで泣いていたかったから。
 先輩が、ぎこちなく首を縦に振ったのが分かった。

 気が付くと、周囲はもう暗くなっていた。雲は晴れたようで、秋の月がふたりを優しく照らしている。
 私が顔を上げると、射命丸先輩は、満足しましたか?と言って、少し呆れたように微笑んだ。
「まったく、困った部下です」
 そう言うと、先輩は私をもう一度抱き寄せて、まるで自分に言い聞かせるような小さくつぶやいた。
「でも、こんなにかわいい部下じゃなかったら、仕事の合間にわざわざ雑談なんてしに来ませんよ」
 いきなりの言葉にびっくりして、照れ隠しにぎゅっと抱き着くと、先輩も優しく私を抱きしめてくれた。
「そう言えば、結局、椛さんは何を悩んでいたのですか?」
「泣いたら忘れてしまいました」
「まったく、本当に困った部下ですね・・・」
そう呟いて、先輩は苦笑いをした。こんなに顔の近くで人の吐息を感じたのは初めてで、なんだか少し恥ずかしい。
「でも、先輩なら、いま私が先輩の事どう思っているか分かりますよね?」
 私はそう言いながら、先輩の顔を下から覗き込んだ。先輩の頬が少し紅くなっている。もしかして、私もこんな顔を先輩に見られているのだろうか。
「ええ、椛さんは考えていることが顔にすぐ出てしまうので」
 そう言って、先輩は顔を私に近づけて微笑みながらつぶやいた。ほら、また出てます。
 晩秋、星降るような夜は不器用なふたりを連れてゆっくりと更けていく。(了)

 

少し、季節感がずれていますね。でも、一番最初に書いてみたかった展開だったんです。秋の月光の下、二匹の天狗なんて素敵だと思いません?